ジョー・ミラー『mRNAワクチンの衝撃 コロナ制圧と医療の未来』

Toru Hisai
Nov 11, 2022

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この本はめちゃくちゃ面白かった。

ドイツのマインツにあるビオンテックという小さな製薬会社の成り立ちから、世界で最初に COVID-19 のワクチンの開発に成功するまでの長い物語。

mRNA ワクチンの開発や製造は、想像していたよりも遥かに大変なことが分かった。法的な問題、医学的な問題、倫理的な問題、政治的な問題が山盛りで、仮にワクチンが作り方が分かっていたとしても、これらを乗り越えるのは並大抵のことじゃない。

それをビオンテックの創業者の夫婦は、恐ろしいほどの正確な直感と粘り強さで乗り切った。そしてそれを支えたのは、必ずしも世界的な権威のある研究者ではなく、どこにいっても不当にしか評価されなかったような研究者だった。

とくにハンガリーで育って娘がオリンピックの出場するのについていくという名目でアメリカに渡り、そこで地道な研究をするも認められずに捨てられそうになったところでビオンテックと出会ったカタリン・カリコのエピソードは奇跡としか言えないような内容だ。

今現在、日本では最新型の「オミクロン BA.4/5」というバリアントに対応したワクチンはビオンテックでしか作っていないようだけど、これは早々にワクチンの変異を予見してそれに備えていたことが功を奏したのかな。

この物語に出てくるマインツやマールブルクなどの地域はぼくが住んでいたフランクフルトからも近く親しみが持てた。mRNA を安全に細胞の中へ運ぶための特別な脂質を作っているのがオーストリアの家族経営の製薬会社だったり、できたワクチンを瓶詰めする設備を持つのがベルギーだったりして、なんとなく距離感が想像できたので余計に楽しく読めた。

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