マーサ・スタウト『良心をもたない人たち』
これは心理セラピストの著者がこれまでに診たたくさんの患者から聞いた話をもとに、サイコパスの特徴をとらえて彼らがどのようにふるまうかを描いた本です。
ちょっと面白いのは、この著者の患者がサイコパスなのではなく、サイコパスに悩まされている人が著者のところへ相談に来てそれを聞き取ったものがこの本の元になっているという部分です。サイコパスは精神の病気の一種ではあるけど、サイコパスの本人たちはそれを治療したいと思うことがないからです。
サイコパスは良心を欠いているため、そうでない人よりも思い切った決断や行動がしやすいので、生きていくうえでも有利なことが多い。
著者がこれまでに聞いた多くの体験談をもとに、4 人の架空のサイコパスが紹介されている。その中にはいかにもサイコパスというような、自分の目的のためには手段を択ばないようなタイプももちろんいるけど、それ以外にも一見サイコパスに見えないようなタイプも紹介されていた。
その中でも特に面白かったのが、「不活動家」と呼ばれるタイプだ。
彼は、じつのところ、不活動家なのだ。最高の望みはのらくらすること、仕事をしないこと、自分以外のだれかに快適な住まいを提供してもらうこと。
恋人の家に転がり込んで結婚し、自分はいろいろな言い訳をしながら働かずにひたすら家でゴロゴロし、配偶者に追い出されそうになると子供を味方につけてでも居座ろうとするような人たち。まさに「ダメンズウォーカー」の世界だ。あのダメンズたちにも一定の割合でサイコパスが含まれているのかもしれない。
この本では、サイコパスは「良心をもたない人」として定義される。では良心とは何か? 私たちはなぜ良心に従っていろいろなものを判断するのか? そういったことを通して「良心」というものそのものに光を当てる本でもある。なので、読み終わった後は心無いサイコパスの話ばかり聞かされて嫌な気分になるというよりも、我々が持っている良心についてより深く理解できて却って温かい気持ちになれた。